２００２年８月、どうにかこうにか不妊治療が再開した。
やったぁ！と超ルンルンの私。
不妊治療のレールに乗れたことが、うれしくてたまらなかったのだ。

しかし、人工授精を指定された日は、８月３１日。
その日は、な、なんと２組の結婚式に出席することになっていた。
フツーに考えれば、そんな忙しい日にわざわざ人工授精を受けないで次回にすれば、となるが、
「朝イチで人工授精をすれば、結婚式に間にあう！ラッキ〜！！」
と決行したのだ。
もう待つのはごめん、うんざりだ、これが私の気持ちだった。

生理周期が２８日の場合、１年間で生理が来るのは１３回。
つまり、妊娠できるチャンスは１年間で１３回というわけだ。
たった１３回のチャンスを水に流すことは、不妊の私にはもったいないこと極まりなかったのだ。

８月３１日、２回目の人工授精を受け、結婚式場へ猛ダッシュ。
根がお調子者の私は、
「結婚式が２件だなんて、二重、いや三重の喜びだわぁ。
おめでたいカップル達にあやかって、私も妊娠だゼィ、やっほう！
それに今妊娠したら、出産は５月。
３月までは働ける。
会社に迷惑をかけずにすむ。
めでたい！めでたい！！祝い酒じゃ！！！」
と、ご機嫌で飲んでいた。

その後どんな気持ちで過ごしたか、当時の日記をひもといてみよう。

９月２日（人工授精３日後）

やばいぞ、私。
浮かれすぎている。
気分は妊婦になっているよ。
ちょっと下っ腹がムズムズするからといっても、受精卵が細胞分裂しているわけではないのだ。
とにかく落ちつかなくては。

９月３日（人工授精４日後）

（病院で排卵確認をした後）
ありがたいことに私のタマゴは排卵していた。
着床の働きを助けたり、内膜を安定させる薬なんてもらっちゃったし・・・。
これで２週間後には妊娠成立だわ！
私のタマゴちゃ〜ん、細胞分裂をして胚になっておくれ！

９月４日（人工授精５日後）

猛烈な不安に襲われる。
妊娠していなかったらどうしよう、という不安である。
生理が来たら、またふり出しに戻る。
ふり出しを受け止めることができるのだろうか。

９月５日（人工授精６日後）

もうこうなったら、妊娠に賭けよう！
私のタマゴは育っているのだ。
今ごろは胚になっているのだ。
そして明日かあさってには、子宮にやってくるのだ！

９月６日（人工授精７日後）

昨晩からちょっとだけムカムカする。
人工授精から１週間。
もしかしたら、本当に着床しているのかもしれない、私のタマゴ。

９月７日（人工授精８日後）

今朝の体温は、３６．６７℃。
下がってしまった。
結果はみえた。
要するに『妄想妊娠』だったのね。
こんなに躁うつが激しいと、そのうち確実におかしくなってしまう。
こんなにタマゴのことを想っていては、タマゴ自身がノイローゼになってしまう。
タマゴ・タマゴと念じないことが妊娠への近道なのね。

９月１２日（人工授精１３日後）

あと４回で薬の服用が終わる。
嫌が応でも結論が下される。
生理が来なかったら妊娠で、生理が来たら妊娠しなかった、というわけだ。
ずいぶんムゴイ判定だ。
グレーというあいまいな答えはない。
マルかバツ。
天国か地獄。

９月１３日（人工授精１４日後）

どうしても待ちきれない。
ブツ（妊娠検査薬）を購入。
スティックを持ってトイレへ駆けこむ。
説明書も読まずにやってみた。
すぐさま、青い線が。
もしかして！？と胸を踊らせ説明書を読んでみたが、何てことはない、青い線は終了のラインだった。
あー、まさしく敗北。

９月１５日（人工授精１６日後）

今日の夕方、やはりお迎えが来た。
人工授精は失敗ということが証明された。

９月１７日
２週間後に人工授精を受けるのか、と考えたら急に嫌になった。
またドキドキしたりハラハラしたり、期待したりがっかりしたりと、感情のアップダウンを味わうのが嫌なのだ。

私はこんなことを繰り返すこととなった。
回数を重ねる度に、全神経は『不妊治療』に向かっていった。
仕事・家事はなんとかこなすものの、タマゴの動向が気になって仕方ない。
本来ならわかちあうべき夫は、単なる精子を出す道具としか思えなくなっていった。
私の心は、タマゴ〜・タマゴよ〜・タマゴちゃん。
タマゴが育っているか、受精したか、着床したか、そのことしか考えられなくなっていった。

すべてのエネルギーは妊娠するか否か、に注がれた。
いつしか私は『妊娠反応ゲーム』の主人公となった。
ゲームの重要ポイントは、受精の方法。
受精は自然か人工か。
正確な答えを知るには、方法はただ一つ。
自然の方法を閉ざすこと。
つまり、セックスしないこと。
人工にすべてを賭けた。
わかっておくれ！ それだけ私にとって人工授精は屈辱だったのだ。
なんてったって、人工授精はむなしいから。
肌と肌とのぬくもりが感じられないから。
オトメチックとでもロマンチストとでも、あぁ、何とでも言っておくれ！
心と体が通い合った中で子どもがほしかったのだ、私は。

４回目の人工授精を受けた１０月３１日、
平然とドクターはこう言った。
「い〜い。
人工授精で妊娠する人は、４回までに９５％の人が妊娠するの。
ここでは同じことをダラダラやらないの」
カウンターパンチどころかノックアウト寸前。
涙をこらえるので精一杯だった。