妊婦ってのは、オンナである。

　当たり前だけど、この当たり前のことを、いきなり目の前にドッカーンと突きつけられるのが妊娠・出産というものだ。

　だってフツーに生活していて、「ああ、私ってオンナなんだわ〜」と実感する時って特別何かあります？　いやその、あんな無能なオトコがどうして私より出世が早いのよ！　とか、今日もチカンに遇っちゃったわ馬鹿野郎とか、そういう社会的問題はさておき。あとはえーと、ベッドの中のうふふでしみじみ実感っちゅうことはあるのでしょうが、それも人生にそう何回も目からウロコが落ちるような刺激的経験があるわけでもないでしょう（と思う。あんまりありすぎても困ると思うよ。たぶん）。

　前回も「橋田寿賀子ドラマにさえ泣いてしまう情緒不安定」について書いたけれど、妊娠から授乳までの期間は、自分の身体と脳がいかにオンナであるかを次々と実感する毎日だった。 　考えてみれば、それまで毎月の生理くらいにしか使っていなかった子宮のなかで、顕微鏡でしか見えないちっちゃな細胞をまがりなりにも人間のカタチにまで育て上げるのである。なんかこう、全身のあちこちを大改造するために（ガオレンジャーとかが、普通の姿から戦闘モードへ変身するイメージ？）、脳の辺りから日替わりでいろんなホルモンがじゃーじゃー出てる感じがしたもんだ。いやほんと、感じるんだってば。

　妊娠初期には、３万円の美容液だってここまで効かんでしょうってくらいお肌がピカピカのつるつるになった。おっぱいの膨張は巷でもよく噂されることだろうが、下がっていたバストポイントが10歳分は持ち上がった（反動で、授乳が終わると15歳分は落っこちたケド）。妙に乙女チックになって、アラ街路樹に花が咲いたのネなんてことにいちいち目がいくようになる。同時に、猜疑心とか嫉妬心とかネチネチちまちました女々しい感情の波にも頻繁に襲われる。赤ん坊に吸われると母乳が出るって仕組みも、女体の神秘だわぁとつくづく感心したものだった。

　だけど――それだけのコトっちゃあ、それだけのコトじゃない？　とも思うのだ。

　妊娠・出産は、確かに自分が「オンナ」であることを日常とはまったく違う面から実感できる機会ではある。しかし、だからといって、「子どもを生まなきゃオンナじゃない」という短絡的というか、因習的な考え方は早いうちに世の中から抹消すべきじゃないだろうか。「せっかく女性に生れたのなら」「このヨロコビを味あわなきゃもったいない」などという忠告めいたオタメゴカシは、非常に醜いタイプの貧乏性的根性だと思うんですけどね、私は。

　それは、不妊治療をどこまで認めるのかという問題にもつながっていく話だろう。どうしても自分で妊娠・出産を経験したいと考える女性がいるのは分かる。だけど――うーん、この問題はとても微妙で難しいから、また今度。言いたいことはいっぱいあるし。