ずいぶん間があいてしまって、大変失礼しました。あらためて再開です。

同性愛と遺伝の関連を調べる研究は、ヒトゲノム解析研究プロジェクトによって始まったわけではなく、1950年代に遡ります。当時、カルマンという研究者が双生児を通じた研究をしたのが始まりです。カルマンの研究やそれに続く研究では、一卵性双生児の場合、二卵性双生児よりも、二人が揃って同一の性的指向を示していることが指摘されました。　

皆さんもご存知のとおり、双生児には遺伝子がまったく同一の一卵性双生児と、普通のきょうだいと同じ二卵性双生児がいます。双生児は、遺伝子の影響だけを取り出して調べるためには適しています。なぜなら、同じ胎内環境で育ち、多くの場合には同じような環境で育っているため、遺伝子がまったく同じ一卵性双生児と、そうではない二卵性双生児を比べてその差を見ることによって、遺伝子の影響を明確にしやすいからです。双生児を長期にわたって追跡するために、アメリカでは国立精神保健研究所を拠点とし、日本では慶應義塾を拠点とした双生児研究プロジェクトがあります。

その後、性的指向は成長の過程で学習されるものだと考えられるようになったり、性的指向が異なる一卵性双生児も現れるようになったりして、遺伝と性的志向の研究は一時期下火になっていました。

しかし、1990年代に当事者による研究を通じて復活を遂げます。ピラルドは1970年代から同性愛指向がいかに選択されるか、について研究してきた精神科医であり、ゲイであることをカムアウトしてきた人です。ピラルドは、ゲイ雑誌を通じてふたごのきょうだいがいるゲイ男性を研究協力者として探し、きょうだいの性的指向について調査しました。その結果、きょうだい間での性的指向の一致率は、二卵性双生児のきょうだいの場合には22％、養子で血縁関係のないきょうだいの場合には11％であるのに対し、一卵性双生児の場合には52％という高い割合になりました。また、レズビアン女性に対して実施した同様の研究では、二卵性双生児の場合の性的指向一致率は16％であるのに対して、一卵性双生児の姉妹の48％が同じくレズビアンであるか、バイセクシュアルであることがわかりました。

とはいえ、この研究には様々な限界があります。ひとつは、ゲイ同士のきょうだいのほうが気軽に参加するかもしれないという可能性です。ゲイ雑誌で募集要項を見た片方が、ヘテロセクシュアルのきょうだいを誘って一緒に研究に参加するという人はどれほどいるだろうか･･･。つまり、母集団の段階でかなり偏りがあったかもしれないのです。

また、個人の遺伝的な差異が原因であるとはっきり断定できるかどうかについても疑問が残ります。双生児研究では、同一の家庭で育つ双生児は同じ環境を共有している、という暗黙の仮定のうえに成り立っていますが、それぞれの環境が均等均質であるとは限りません。学校やクラブなど家庭以外の社会的影響、マスメディアによる影響をいかに統制するかということは大変に困難なことです。

そこで、生まれてから別々に育ち、明らかに違う環境の影響を受けているけれども、遺伝子は同一であるという双生児の存在が重要になってくるのです。