●２月２１日からいよいよ公開されるラース・フォン・トリアーの『ドッグビル』。こんな嫌な気分になる映画もめったにありませんが、やはり凄い映画だと思います。人間の表面的な善行や平和の奥底に潜む欲望や独善を、複雑な仕掛けを通して観客にさらしてゆくトリアーの、ほとんど「悪意」といってもいいほどの情熱はどこからくるのだろう。引き合いに出すのが全く適当でないと承知で言及するのですが、モフセン・マフバルバフ監督の『サラーム・シネマ』に、同様のエネルギーを感じたことを思い出しました。（余談ですが、マフマルバフには娘がふたりいて、長女のサミラがガルシア・ロルカの詩からタイトルを取った『午後の五時』という作品をアフガニスタンで撮影済みで、日本でも試写が始まっています。今年春に銀座テアトルシネマで公開。筆者は未見です。また妹のハナは、１４歳で姉の映画のメイキングである『ハナのアフガン日記（原題ＪＯＹ　ＯＦ　ＭＡＤＮＥＳＳ）』を撮影しています。こちらは東京フィルメックスで上映されたのを見ました。マフバルバフ・ファミリー恐るべしの作品群です）。
●話が逸れました。今週あたりから『ドッグビル』の紹介が各紙誌に出ているので、内容は詳しく触れませんが、ただ、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は嫌いだった私が、この映画はかなり気に入ってしまいました。私だけでなく、トリアーのアメリカそのものへの「純粋な悪意」が、世界に受け入れられる嫌米的な気分がここ１年でぐっと広がったことは間違いないと思います。そういう情勢がなければ、この作品は非難囂々で葬られたに違いありません。
●デンマーク人のトリアー監督、飛行機に乗れないらしいんです。で、カンヌに行くときも車で３日かけていくんですって。当然、アメリカなんて一度もいったことがない。行く気もない。そのトリアーが、ロッキー山脈の麓にあるドッグビルという村の狂気を、完全にアブストラクトなセット（黒い地面に家の間取りが白線で引かれているだけで、壁も屋根もないという舞台劇でもかくやというセット）で描いた。トリアーは、つまり「純粋」なものを描いたのですね。純粋な敵意、純粋な性欲、純粋な嫉妬、純粋な偽善。そしてこうした純粋さが、外界と交流の極端に少ない、モノカルチュラルな村において蒸留されて、「狂気」という結晶が現れていく･･････。あまりに凄惨なラストに、しかし私は爽快感すら覚えたのでした。しかし、このラストを執行する側もまたアメリカそのものなのではありますが。
●とにかく、この作品、見てください。具体的なことをあまりいうと面白くないので、もどかしいけど、これ以上はやめときます。みんなでこの嫌な気分を共有しましょう。だって、それがいま現在の世界で起こっていることに対して、我々が普通に持つべき感情と相似形だと、私は思うからです。
●トリアーはデンマークで「ドグマ９５」というグループを作っていて、「貞潔の誓い十箇条」という決まりを守って映画をつくっています。「撮影は手持ちカメラ１台で」「自然光のみで照明は使用しない」「音楽はその現場で聞こえている音以外使わない」「フィルターや画像処理をしない」「監督名はクレジットしない」などなど、なかなか厳格なルールを課していますhttp://www6.plala.or.jp/khx52b/movie/dogma.html。最近だと、大ヒット中の『幸せになるためのイタリア語講座』がドグマ映画です。ドグマ手法で制作された映画を認定する活動もしており、韓国映画『インタビュー』も認定されています。異常なテンションです、デンマーク映画。ついでにいえば、北欧のジャズ界もノルウェーを中心に凄いことになっています。昨年、コペンハーゲンに行きましたが、とても小さくて退屈な都市で、映画でもつくるかって気持ちはわかりました。ドグマ公式ＨＰは http://www.dogme95.dk/
●それにしても私のアメリカ嫌い、ハリウッド嫌いも極端ですかね。

＜最近見た映画＞
『ルビー・アンド・カンタン』（公開中）☆☆☆ジェラール・ドパルデュー最高！
http://www.taistoi-lefilm.com/flash/index.html
『２５時』（公開中）☆☆☆好演のエドワード・ノートンには悪いけど、ショーン・ペンだったらもっと良かったかな。
http://25thhour.jp/
『ふくろう』（公開中）☆☆（笑）
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD4646/index.html
『ピニェロ』（公開中）☆☆音楽がですね、意外と効果的に使われていないのですよ。この監督の『クロス・オーバー・ドリームス』は、ルベーン・ブラデスの俳優デビュー作で素晴らしいサルサ映画だったんだけど。まだまだロングラン中の『モロ・ノ・ブラジル』のような音楽的高揚感はなかったのが残念。
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD3871/index.html
『みんなのうた』（公開中）☆☆☆音楽がですね、意外と楽しかったのですよ、フォーク映画だというのに。で、このドキュメンタリー映画がまるごとニセ・ドキュメンタリーだっていうのがまた、最高です。
http://movies.yahoo.co.jp/m1?ty=rs&id=142017
『ロスト・イン・トランスレーション』（ＧＷ公開）☆☆☆大好きな映画。大好きな桃生亜紀子ちゃんもちらっと出ていたし。昔好きだったジーザス・アンド・メリーチェーンもサントラに入っていたし。しかし、アカデミー賞の作品賞、監督賞候補ってのが気にくわねえ。本人（ソフィア・コッポラ）のせいでは全くないが、オヤジがコッポラじゃなかったら、候補にしたかね。非常にアカデミーらしくない映画だ。それともアメリカ映画も本当に変わったのか。本当なら、ビル・マーレーに主演男優賞をやってみせろ。ついでにいうけど、ゴールデン・グローブ賞で外国映画賞取ったセディック・バルマクの『アフガン零年』が候補にもなってないのはどういうわけ？　なんで『たそがれ清兵衛』なの？　
http://www.lit-movie.com/
『幸せになるためのイタリア語講座』（公開中）☆☆☆これもまたドグマ映画
http://www.zaziefilms.com/italian/intro.html
『ラブストーリー』（公開中）☆☆クドい！単純に話を終わらせられんのか、この監督。でも、そこが持ち味だよな。
http://www.klockworx.com/lovestory/