衝撃が走ったのは2001年秋、28歳のときだった。
友人からの、メールが。
「びっくりしないでね、私
ガンになっちゃった。
しばらく入院するから、携帯つながらないの。」

「え―――――――――っ。」私は病院に直行した。

そこには、いつもと同じ表情をした、
ただ病院のベッドで所在なく座っている彼女がいた。
気丈な彼女はこういった。

「ごめんね、びっくりさせちゃって。
ガンになってしまったものは、仕方ない。あとは治すだけ。
でもねぇ、蘭はちょっとでも何か気になることがあったら、
病院に行ってね。」

病院からの帰り道、彼女の強さに驚いたのと同時に、
「何か気になることがあったら、病院に行ってね。」
この言葉がグオーンと鳴り響いた。

当時、私たち夫婦は結婚をして、すでに3年が経過していた。
夫の「子どもがほしい！」という強い希望があり、
避妊をしていなかった。
とはいっても全くもっていい加減。
子どもができてしまったら、自由な時間がなくなる〜！
というキョーフ感でいっぱいだった私は、
排卵日が近づくと夜遊び三昧。
避妊をしていないというより、何もしていなかったのだ。

当然、夫婦の仲はギクシャクしていた。
煮え切らない私に夫はイラ立っていた。

彼女の発言は私の踏み絵となった。
「もし私に、一大事があったら、後悔することは何か？」
浮かびあがってきたことが、

「私、妊娠していない。
子どもを産んでいない。
せっかくこの世に産まれてきたのだから命は引き継ぎたい。
子ども、子どもかぁ。
子ども、産まなきゃ。
子ども、産むしかない！」

その後、私が何をしたかというと、
子づくりに励むわけではなく、
基礎体温計と基礎体温表を購入することだった。
持病もちの私は、心のどこかで「私、妊娠できるのかしら？」という不安を抱えていたのだ。

毎日計ること３ヶ月、3回の生理周期のグラフを完成させた、生理開始9日目、
不妊治療の扉を開いたのだった。