妊婦ってのは、ふてぶてしい。

　産婦人科というのも ―― 大病院の中にあると特にそう思うのだけど、なんかこう、ドテッとした妙なふてぶてしさに覆われている気がする。

　自分で経験する前まで、あれは「オンナ」を捨てて「ハハ」になった（厳密にいえばなる前ですが）種族独特の、あきらめというか開き直りのせいかと思っていた。私なんか、妊婦だしぃ、大股開いて座っても人前でボリボリお菓子食べても化粧っけなくてもトイレ近くても仕方ないじゃな〜い、とでもいいそうな。 　 だけど、実際に妊娠・出産を経てみると、あれはつまり、「運命（あるいは自然の摂理か）に、どーんと身を任せた姿」なんじゃないかと思えてきた。

　 医学については素人だからよく分からないけれど、今の世の中、病気でもケガでもある程度は原因が分かれば治療法もはっきりしているものでしょう。アレがああなって、コレがこうなって、だからアソコにこう出て、ソコはこうすれば治る、みたいな（雑駁なイメージですいません）。

　 しかしそれが、こと産科医療に関しては、なんかどっか違うんですね。アレがああだからコレがこうなるとは限らず、一生懸命こうしても結局ああなっちゃうとか。すごく運命まかせな部分が多い。

　 自分を例に取ってみても、まあ３８歳の高齢出産というハンディはあったにせよ、食生活もカンペキに整え仕事も減らし（減っただけか？）、細心の注意を払って妊娠生活を送っていたにもかかわらず、予定日近くにいきなり「羊水が足りません」とかいう診断が下され緊急入院。何で？　どっからどうして羊水が出ちゃうワケ？　と疑問符だらけのまま出産へ突入したという経緯がある。雅子妃の出産について秋篠宮が「無事に生れるまでは何も言うべきではない」とコメントしたのはとても正しかったと思うけれど、どんなにそれまで何事もなく順調に妊娠生活を続けてきた人でも、出産のその日、何が起きるかは誰にも予想できないのだ。

　 何をしてもムダという訳ではないけれど、何をしても結局最後は運命まかせ、神頼みというのが「人が生れる」ってことなんじゃないかと私は思う。妊婦のふてぶてしさとはつまり、矢でも鉄砲でも持ってらっしゃいよフン、受けて立ってやるわよヘン、と天に向かって仁王立ちする女たちの、はかなくも凛々しい覚悟のあらわれなのではなかろうか。

　 生命科学や生殖医療とは、そういう運命任せ、神頼みの世界に科学の手を伸ばすことだと思うのだけど―― それについては、また今度、言いたいことが山ほどあるぜぃ。