受精卵は人か否か Life Science Information Net produced by 最相葉月／トピックス

再生医療 2002.07.25
文部科学省専門委員会、信州大学のＥＳ細胞研究計画で依然として継続審議

信州大学医学部のグループは、2001年12月7日にアメリカのWiCell research Instituteから輸入する人間のES細胞株を利用した研究計画を文部科学省に申請していましたが（国内申請第1号）、2002年7月24日に開催された文部科学省生命倫理安全部会の第九回特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会においても依然として認可に至らず、継続審議することとなりました。専門委員会の主査・豊島久真男住友病院長は「これまで委員会が行った指摘を信州大学が正しく理解していない」「今後のほかの計画にも影響を与えるので、指針の精神を十分議論する必要がある」と判断したためだとしています。

当初の計画では、輸入した人間のＥＳ細胞をかなり広範な細胞に成長させることとなっていましたが、動物実験の蓄積・裏づけがないなどの専門委員の指摘があったため、これを心筋と肝臓細胞に限定するなど縮小をするなど、これまでの専門委員会の指摘を受けて修正を重ねてきました。しかし、今回の文科省専門委員会に提出された信州大学内倫理委員会の議事録には「ヒトＥＳ細胞は他の細胞と変わらず、特別扱いする必要はない」「医療のためになればいい」といった倫理を軽視する複数の発言があるにもかかわらず、学内倫理委員会はそれ以上議論を深めていませんでした。こうしたことから、文科省専門委員から「指針への理解が足りない」「却下すべき」といった意見が出ました。
このため、文部科学省は専門委員を信州大学に派遣して意見交換を行い、さらに継続審議することとなりました。

なお、この研究計画を申請している信州大学医学部の佐々木克典教授（臓器工学）は、今年4月に開催された日本再生医療学会で、光触媒で体内の水分から酸素を作って血液に供給するバイオ肺に心筋細胞を組み合わせたバイオ人工心肺の動物モデルを作ることに成功したと発表、体内埋め込み型のバイオ人工心肺に向けた研究を行っています。（光触媒は中部電力との共同研究）

▲ヒトＥＳ細胞の樹立及び使用に関する指針について（文部科学省研究振興局ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室）
指針とＥＳ細胞の説明図版、各国の規制の状況がわかります。研究機関と国の二重審査を行うことのほか、提供するカップルへどのように説明同意（インフォームドコンセント）の手続きが行われるのか等が記されています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/index.htm

▲文部科学省生命倫理安全部会
特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会議事録
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/index.htm

▲信州大学が輸入するES細胞株をもつアメリカの研究機関　WiCell research Institute
（そもそも人間のES細胞は１９９８年１１月にウィスコンシン州立大学マジソン校のJames A. Thomsonのグループが世界で初めて分離・培養に成功しました。この技術と利用に関する特許は、ウィスコンシン州立大学の知的所有権を管理する非営利組織WARF（Wisconsin Alumni Research Foundation）が所有しています。WiCell research InstituteはWARFが人間のES細胞を安価で提供するために２０００年２月１日設立した非営利機関です。Thomson博士に対して人間のES細胞の提供を求める研究者が殺到したこと、WARFに対して多くの企業が技術の利用を要望したことなどが設立の理由です）
http://www.wicell.org/

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